トルコリラ安、投資信託に与える影響は?
トルコの通貨リラが大きく値を下げています。2018年1月は1トルコリラが約30円でしたが、トルコの政治不信の影響でリラ安が進み、8月頭には1トルコリラ22円~23円で推移していました。そこに追い打ちをかけたのが米国との外交関係の悪化です。一時16円を割り込むまで下落しました。
ではこのような通貨安は、投資信託にどのような影響を与えるのでしょうか?
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通貨安は投資信託の価格を引き下げる
下のチャートはトルコの株式に投資する損保J日本興亜-トルコ株式オープン(愛称:メルハバ)の基準価格の推移です。
冒頭にあるトルコリラの価格推移と同じように、投資信託の基準価格も下がっています。
投資信託には、運用する資産価格の変動によって値を上げ下げする価格変動リスクがあります。今回はそこに為替変動リスクが加わり、基準価格の変動に大きく影響しました。
外国株型の投資信託でも、購入時は円なので、為替変動の影響を受けないように感じます。しかし、実際には外国の資産に投資するため、円をその地域の通貨に交換して資産を運用します。
仮に、投資対象の資産に値動きがなければ基準価格に影響を与えません。しかし、為替が円高・トルコリラ安となった場合、円ベースでの資産価値は目減りし、基準価格が下落します。
また、通貨選択型の投資信託も同じように為替の影響を受けます。通貨選択型の投資信託は、投資信託の運用に政策金利の高い通貨を組み込むことで、利益の上乗せを狙います。
下のチャートは新興国の債券などに投資するDWS通貨選択型エマージング・ソブリン・ボンドファンド トルコリラ毎月の基準価格の推移です。
以上のように、通貨の下落は投資信託の価格を引き下げます。これは為替差損(かわせさそん)と呼ばれます。逆に、円に対して投資している通貨が高くなった場合は、今回と逆に価格の上昇、為替差益(かわせさえき)が発生します。
円に対して | 基準価格 |
---|---|
通貨安 | 下がる(為替差損) |
通貨高 | 上がる(為替差益) |
先に紹介した投資信託2本は、8月17日時点では売買を受付していますが、三菱UFJ国際投信の『トルコ債券オープン(毎月決算型)』は一時的に運用を停止しています。急な為替の変動によってトルコの通貨や債券の売買が難しくなったためです。
また、投資信託には為替の動きによる価格変動を回避する為替ヘッジというしくみがあります。先程紹介した『トルコ債券オープン』にも為替ヘッジ型の商品がありますが、為替ヘッジをするために必要な取引ができず、こちらも売買を停止しています。今回のような急激な為替の変動がある場合、為替ヘッジが機能しない場合もあるので注意しましょう。
今後、新興国の通貨はどうなるのか?
ニュースではトルコリラの下落が大きく取り上げられていますが、その他の新興国通貨も下落しています。例えばアルゼンチン・ペソや南アフリカ・ランドなどです。今回のトルコリラの下落は、米国との外交問題の影響が大きいですが、その他の新興国の通貨安は、米国の経済政策の影響が大きいです。
リーマンショック後、アメリカは落ち込んだ景気を刺激するため政策金利を引き下げ、市場に多くのお金が出回るようにする金融緩和を実施しました。そのときに出回ったお金は、アメリカ国内だけにとどまらず金利の高い新興国に流れました。
その後金融緩和の影響もあり、先進国の景気は回復しています。そこで、今度はアメリカが金利を従来の水準に戻すべく、金融引き締め(利上げ)に政策を転換しています。すると、新興国に流れていた資金は『経済が未熟で信用度が低い新興国よりも、経済が回復し、金利が上がりつつあるアメリカで運用しよう』という流れが生まれ、新興国の通貨が売られてしまいます。
今後もアメリカの利上げが進むと、新興国の通貨や経済は不安定な状況が続くかもしれません。
このように投資する地域や国で社会情勢や外交関係、経済事情などに変化が起こり、証券や通貨の価格が変化することをカントリーリスクと呼びます。このカントリーリスクは、一般的に先進国は影響が小さく、新興国は影響が大きい傾向があります。
下の表は、経済協力開発機構(OECD)が発表する世界各国のカントリーリスク評価の一部です。A~Hの8段階評価で、先進国はA評価に入っていますが、トルコは下から3番目のF評価です。
ちなみにアジア主要国の評価を見ると、A評価に日本・シンガポール、B評価に韓国・台湾、C評価に中国・マレーシア、D評価にタイ・インドなどが入っています。
今後はどうすればよいか?
新興国の通貨や資産は、先進国と比較すると経済や社会の規模が小さいため、社会情勢や外交関係の変化によって、大きく値を上げ下げすることがあります。2018年はアメリカの金利上昇や貿易政策によって、市場は不安定な状態にあり、新興国から資金が資金が引き上げられる流れが観測されています。こうした動きは、新興国経済にとって逆風です。ただし、長期的な視点で見ると新興国は先進国と比較して今後成長する伸びしろが大きく、投資対象として魅力的な部分があります。
このような投資環境においては、値動きだけを見てリスクの大きい新興国にだけ投資するのではなく、相対的にリスクが小さい先進国の資産への投資比率を増やすほか、積立投資で投資時期を分散させるリスクを取りすぎない投資に取り組むのが良いのではないでしょうか。
この記事の執筆者
やさしい投資信託のはじめ方編集部
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